2021年 五神総長年头挨拶

あけましておめでとうございます。新型コロナ感染との戦いの中で、みなさんも例年とは少し违った新年をお迎えのことと思います。私の総长としての年头の挨拶は、今年が最后になります。総长に就任した2015年に学内の熟议をへて私は『东京大学ビジョン2020』をまとめました。そこで打ち出した知の协创の世界拠点として「社会変革を駆动する大学」となるという行动指针は、独自性の高いメッセージと评価していただく一方で、大风吕敷に过ぎるとの悬念を抱かれることもありました。しかしそれから6年がたった今、このビジョンのもとでの私たちの努力は、幅広く社会から、共感を得つつあると感じています。
その中からここでは、昨年8月に设立されたグローバル?コモンズ?センターの活动と12月の东京フォーラム2020について、触れたいと思います。
私たちは今、地球環境を人類が支配し、巨大な負荷をかけ続ける新たな地質時代「人新世(Anthropocene)」を生きています。地球は誕生から46億年ですが、人類の歴史はまだ700万年です。にもかかわらず、人類は、 不動と信じられていた“大地”、すなわち地球そのものを変貌させてしまうほど力を拡大したのです。地球という、人類だけでなく、生きとし生けるものすべてにとって、かけがえのない財産について、私たちはどのように責任ある管理(global commons stewardship; GCS)をしていくべきか。そのための国際的で知的な枠組みの構築が喫緊の課題となっています。東京大学は、この課題に真剣に取り組むために、石井菜穂子理事をダイレクターとしてグローバル?コモンズ?センターを設立しました。一方、韓国の学術振興財団Chey Instituteと共同で10年間の年次開催の国際会議として、2019年よりスタートさせたのが東京フォーラムです。研究者、政策決定者、経営者や実業家、NGO指導者など、世界各地から多様な識者が一堂に会し、議論する場の必要性を強く感じていたからです。オンラインで開催された東京フォーラム2020では、「Global Commons Stewardship in the Anthropocene」というテーマのもと、地球システムと人類社会の持続可能性についてさまざまな観点から議論がなされました。
そこで议论されたなかでとても强く印象に残った论点があります。それは、もし2030年までに、経済活动の抜本的な方向転换ができなければ、人类は地球环境をコントロールするすべを失ってしまう、という科学者の警告です。残された时间はわずか10年、まさに今、すべての人が「自分事」としてできることを始めなければならないのです。
その第一歩として、本学のグローバル?コモンズ?センターは国連のSDSN(Sustainable Development Solutions Network)やYale大学と協力してGlobal Commons Stewardship index、GCS index、のパイロット版を作成し、公表しました。GCS indexとは、地球システムを守るために努力しなければならない項目について、科学的な客観的データから総合的に評価する指標です。環境負荷の計測や目標達成度など各国のグローバル?コモンズ保全の取組み状況を把握する重要な“ものさし”で、国際的な政策論議のベースになるものです。GCS index作成は、本学がどのように社会変革を駆動しようとしているのか、その行動の具体例として、世界のリーダー達から高く評価され、フォーラムの大きな成果のひとつとなりました。
このフォーラムは、本学が议论をリードしてきた、サイバー空间の健全性とグローバル?コモンズとを组み合わせるという新しいフレームワークのお披露目の机会ともなり、多くの人びとの共感を得たと感じました。世界はデジタル革新により、モノが価値の中心を担う、资本集约型社会から、知识?情报やそれを活用したサービスが経済的価値の中心になる知识集约型社会へと大きく変わろうとしています。サイバー空间を健全なコモンズにすることは、现代社会において极めて重要です。データを适切かつ公正に活用することで、拡张主义的な経済成长のもとで、切り捨てられがちであった価値を丁寧に汲み取り、多様な人びとがそれぞれの强みを活かしうるインクルーシブな未来社会が実现する可能性があるのです。この大転换においては、多様性こそが、新たな価値创造と成长の源泉となるのです。人文知や先端科学への深い理解と知见を蓄积し、多様な知を支える人材を育成してきた东京大学の役割と责任は极めて大きいと感じています。
もちろん本学自身が、自ら戦略を立て行动する「経営体」に生まれ変わらなければ、社会変革を駆动する力を生みだすことはできないでしょう。
その切り札として、昨年10月に、日本の国立大学として初となる200亿円规模の大学债(东京大学贵厂滨债)を発行することができました。この债券に対する投资家からのオーダー総额は発行额の6倍以上の1260亿円にも达し、サステナブルファイナンス大赏も受赏することができました。偿还のための财源を生み出せる事业のみを対象とするプロジェクトファイナンス型の债券ではなく、本学全体の信用のもとで资金を调达し、それをより自由に使うことができるコーポレートファイナンス型の大学债で、ソーシャルボンドとして発行しました。これらの新しい特长が、市场に歓迎されたのです。この大学债は、本学に限らず、社会全体と大学との新たな関係の构筑に有益なものです。同时に、より良い社会を筑くための次世代への投资を呼び込む仕组みにもなります。知识集约型社会を动かす経済メカニズムの创出につながるもので、东京大学贵厂滨债の意义は极めて大きいと考えています。
东京大学がこの先駆的な取り组みを実现することができたのは、长い歴史の中で先达が筑いてきた无形の知的资产に根差した社会的信用があったからです。そしてその信用を、今、私达は次世代のため、より良い未来社会のために、生かしていく责任があるのです。あらためて今、みなさんとともに确认しておきたいのは、この贵厂滨债が开いた40年という时间は、远く离れたところにある「他人事」の未来ではなく、グローバル?コモンズの责任ある管理と同じく、现在の行动の选択において向かいあうべき未来なのだということです。
颁翱痴滨顿-19によるパンデミックの异常事态の収束を待って元通りの世界に戻ることだけを愿うのではなく、この危机をこれまでにないチャンスに変えなければなりません。そのために、今、何ができるかを考えるのがアカデミアの责务だと思います。折しも昨秋、日本は2050年にカーボン中立を目指すという宣言をし、人类の未来のために协力する世界の多くの国々の戦列に加わることを决意しました。これは社会経済システムの在り方を根本的に见直す大事业となります。この中で我々の果たすべき役割は大きいと思います。
未来のための大学债を活用して、无から有を生み出し、持続可能であるとともに、多様で包摂的な明るい未来社会をいかに创造していくのか。『东京大学ビジョン2020』の次を描く『未来构想ビヨンド2020』を策定するなかで、皆で考えていこうではありませんか。东京大学の构成员の一人一人が夸りと责任をもって取り组みそれを社会のさまざまな人びとにつなげることができれば、どんな困难も乗り越えられると信じています。このようなポテンシャルをもった组织は他にはないということも、総长としての约6年间で强く感じたことのひとつです。私の任期は3月で终了しますが、これらの仕组みや构想は次期総长の藤井辉夫先生にぜひ引き継ぎたいと思いますし、私も构成员の一人として本学の构想の実现に向けて努力を続けていきます。私たちの科学と创造力を信じ、前を向いて共に进みましょう。

2021年1月1日
东京大学総长
五神 真