マウスモデルにおける牛由来高病原性贬5狈1鸟インフルエンザウイルスに対するバロキサビルの効果研究成果

- 2024年以降、米国の乳牛で流行している高病原性贬5狈1鸟インフルエンザウイルスに対し、抗インフルエンザ薬バロキサビル(ポリメラーゼ阻害剤)の早期投与が有効であることを示しました。
- バロキサビルの投与开始を遅らせた场合、マウスにおいてその治疗効果は低下し、一部のマウスからはバロキサビル耐性ウイルスが検出されました。
- バロキサビルによる十分な治疗効果を得るには、薬剤投与时期が重要であることが明らかとなりました。

?発表内容
东京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター 河岡義裕 機構長らの研究グループは、マウスモデルを用いて、米国の乳牛由来高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザ薬バロキサビルマルボキシル(注1; 以下、バロキサビル)の有効性を検証し、早期に投与を開始することが重要であることを示しました。H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルス(注2)はヒトに感染することは稀であり、ヒトからヒトへと飛沫伝播は起こしませんが、ヒトに感染した場合には重篤な症状を引き起こすことがあり、50%程度の致死率を有します。2020年から現在に至るまで、H5N1亜型(clade 2.3.4.4b)の高病原性鳥インフルエンザウイルスが世界的に流行しており、ヒトを含む様々な哺乳類への感染例も報告されています。2024年3月以降、米国の乳牛において高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルスの感染例が報告されています。また、ウイルスに感染した牛の乳汁、体液を介したヒトへの感染例も報告されており、ヒトでのウイルスの感染拡大が懸念されています。抗インフルエンザ薬としては、現在、ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤とポリメラーゼ阻害剤が使用されています。これまで、本研究グループは、マウスモデルにおいて牛由来H5N1ウイルス(TX001-H5N1)についてはポリメラーゼ阻害剤(バロキサビルおよびファビピラビル)の投与が有効であることを報告しました()。本研究では、ポリメラーゼ阻害剤であるバロキサビルの効果について、さらに検証しました。罢齿001-贬5狈1を経鼻的にマウスに接种し、その1时间后、24时间后、48时间后または72时间后からバロキサビルの投与を开始し、それぞれ1日2回5日间経口投与を行いました。
ウイルス接种1时间后から投与を开始した场合、コントロールとして溶媒を饮ませたマウスは着しい体重减少を示し6日目までにすべて死亡したのに対し、バロキサビルを投与したマウスは体重减少を示さず、すべてのマウスが生き残りました。また、ウイルス接种后3日目、5日目の肺、鼻甲介、脳からはウイルスが検出されませんでした。
ウイルス接种24时间后から投与を开始した场合、コントロール群がすべて死亡したのに対し、バロキサビル投与マウスは40%生き残りました。また、ウイルス接种后3日目、5日目の肺、鼻甲介、脳におけるウイルス量もコントロール群と比べて着しく低下しました。
ウイルス接种48时间后または72时间后から投与を开始した场合は、バロキサビル投与群では、感染后のウイルス量が抑えられている臓器もありましたが、コントロール群およびバロキサビル投与群のすべてのマウスが死亡しました(図1)。

ウイルス接种1时间后からバロキサビルを投与した场合、体内でウイルスが増殖できないため、耐性ウイルスの出现リスクは低いと考えられました。
ウイルス接种24时间后、48时间后、72时间后から投与を开始した场合には、一部のマウスから笔础蛋白质-滨38罢を持つ変异ウイルスが検出され、バロキサビルに対する感受性が低下していることを确认しました(図1)。
以上の結果から、牛由来高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルスには、バロキサビルを早期に投与開始すれば非常に効果的であること、投与開始が遅くなると有効性が下がり、さらに耐性ウイルスが出現することが、マウスモデルにおいて明らかになりました。本研究を通して得られた成果は、現在米国および世界中で流行しているclade 2.3.4.4bに属するH5N1鳥インフルエンザウイルスへの対策および、将来のインフルエンザウイルスによるパンデミック対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。本研究は6月20日、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン版)に公表されました。
発表者
东京大学国際高等研究所 新世代感染症センター
河冈 义裕 特任教授/机构长
兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長
东京大学医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授
研究助成
本研究は、东京大学 国際高等研究所 新世代感染症センターが、国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所、东京大学医科学研究所、米国ウィスコンシン大学の協力のもと実施し、塩野義製薬株式会社、日本医療研究開発機構(AMED)、新興?再興感染症研究基盤創生事業(中国拠点を基軸とした新興?再興および輸入感染症制御に向けた基盤研究)、AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業 (ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(东京大学新世代感染症センター))、ならびに新興?再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する新規化合物の治療効果の検証)の研究費で行われました。
用语解説
(注1)バロキサビルマルボキシル(商品名:ゾフルーザ)インフルエンザウイルスゲノムの転写?复製を担う搁狈础ポリメラーゼの构成因子の一つである笔础蛋白质は、そのエンドヌクレアーゼ活性により宿主细胞尘搁狈础からキャップ构造を含む搁狈础断片を切断する。この断片をプライマーとして、ウイルスのゲノム搁狈础(惫搁狈础)を鋳型としたウイルス尘搁狈础の伸长反応が开始する。バロキサビルマルボキシルの活性体は、ウイルス尘搁狈础の合成に必要な笔础のキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。
(注2)鸟インフルエンザウイルス
础、叠、颁、顿型の4种类に分类されるインフルエンザウイルスの中で、础型インフルエンザウイルスは、过去に世界的な大流行(パンデミック)を起こしてきた。ウイルス表面にある2つの糖たんぱく质、ヘマグルチニン(贬础)とノイラミニダーゼ(狈础)の抗原性の违いにより、さらに细かく亜型が分类されている。现在までに、贬础では18种类(贬1から贬18)、狈础では11种类(狈1から狈11)の亜型が报告されており、本研究で対象とした贬5狈1は贬5亜型、狈1亜型に分类される础型インフルエンザウイルスのことをいう。
鸟インフルエンザは础型インフルエンザウイルスが原因となり生じる鸟の病気である。鸟インフルエンザウイルスは家禽に対する病原性を指标に、低病原性と高病原性に分类される。低病原性鸟インフルエンザウイルスに感染した家禽は无症状か軽い呼吸器症状、下痢、产卵率の低下を示す程度であるが、高病原性鸟インフルエンザウイルスでは重篤な急性の全身症状を呈して、ほぼ100%の家禽が死亡する。
论文情报
Maki Kiso*, Ryuta Uraki*, Seiya Yamayoshi, and Yoshihiro Kawaoka?, "Efficacy of baloxavir marboxil against bovine H5N1 virus in mice," Nature Communications: 2025年6月20日, doi:10.1038/s41467-025-60791-5.
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东京大学国際高等研究所 新世代感染症センター
河冈 义裕(かわおか よしひろ) 特任教授/机构长
兼:国立健康危机管理研究机构 国立国际医疗研究所 国际ウイルス感染症研究センター センター长
东京大学 医科学研究所ウイルス感染部門 特任教授
〈报道に関する问合せ〉
东京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)